モータの軸を延長して回す

【最終更新:2018/12/17】

非専門分野・独学のまとめにつき、内容に誤りがあればご指摘いただけると助かります。
本記事内容の参照は自己責任にてお願いします。

モータの軸の延長

モータの出力軸は短いため、用途によってはカップリングを用いて軸の延長を行う。
このとき、軸が長くなるとすりこぎ運動(歳差運動)が起きやすくなる。

そのため、回転する軸をボールベアリング(軸受)によって支持することで、 軸が振れないようにする。
このとき、2つの軸受を用い、離れた2点で軸を支えると安定する。

モータに加わる荷重

出力軸に負荷を取り付けてモータを回転させたとき,モータに加わる荷重は

  • 回転の径(radial)方向
  • 回転の軸(axial)方向

の成分に分解できる。
それぞれを、ラジアル荷重アキシアル荷重と呼ぶ。

軸受は支えられる荷重の方向と大きさが決まっているため、モータにかかる荷重に合わせて軸受を選定する必要がある。

軸受の種類

モータの軸を支える軸受には、大きく

  • 転がり軸受
  • 滑り軸受

の2種類が存在する。転がり軸受の方は動きが軽く、高速回転に強い。
一方すべり軸受は、シンプルな構造のため構造強度が高く、厚さが薄くなるのでコンパクト化がはかれる。

今回は、転がり軸受を用いることにした。

参考:https://www.igus-japan.jp/bearing_2_slide_rolling/

そして転がり軸受は、受けられる荷重の方向によって

  • ラジアル軸受
  • スラスト軸受

に分類される。これらは主に接触角によって使い分けられ、それぞれ異なる方向の荷重を支えるのに適している。
一般に接触角が45°以下では、ラジアル荷重の負荷が大きいためラジアル軸受を用いる。
接触角が45°を超えると、アキシアル荷重の負荷が大きくなるのでスラスト軸受を用いる(アキシアル軸受ではないらしい)。

モータにかかる荷重を理解し、適切な軸受の選定を行う必要がある。

要補足:接触角について図示したい

転がり軸受の選定

基本定格荷重\rm Cと等価荷重\rm P

転がり軸受が受けられる荷重の大きさは、基本定格荷重\rm Cとしてカタログに与えられている。

この定格荷重は、ラジアル軸受では基本定格ラジアル荷重\rm C_r、スラスト軸受では基本定格アキシアル荷重\rm C_aとして、軸受には一方向成分かつ一定の荷重がかかるものとして定義されている。

しかし実際の利用では、軸受にはラジアル荷重とアキシアル荷重の合成荷重がかかり、大きさも一定とは限らない。
そのため、軸受の選定の際には、発生する合成荷重を軸受に同じ寿命を与え、軸受の中心において純ラジアルあるいは純アキシアルの単一方向に作用する仮想荷重に換算する.

この仮想荷重を等価荷重\rm Pという。

ラジアル軸受の場合は純ラジアル荷重(アキシアル成分なし)、スラスト軸受の場合は純アキシアル荷重(ラジアル成分なし)として等価荷重を算出する。 それぞれを等価ラジアル荷重\rm P_r等価アキシアル荷重\rm P_aという。

等価荷重への換算を行うための式や係数はカタログで与えられている。
得られた等価荷重を参考に、軸受の選定を行う。

等価荷重の計算の例

NSKではカタログに計算式が示されている(要追記)。

参考:4.4 等価荷重 http://www.ntn.co.jp/japan/products/catalog/pdf/2202_a04.pdf
寿命と選定 http://eb-cat.ds-navi.co.jp/jpn/jtekt/tech/eb/info/03/3_1.htm

水平に回転する円板による荷重

今回は、延長したモータの軸先に円板を取り付け、軸の長いターンテーブルを作りたい。
地面に対して水平に設置した円板をモータで回転させるとき、モータにかかる荷重は

  • 円板の重量によるアキシアル荷重
  • 偏心によるラジアル荷重
  • (要調査:加速度の影響もあるらしい?)

である。
ここで、モータの軸を延長するためには当然軸受だけでなく、延長する軸自体(シャフト軸)も選定する必要がある。

シャフト軸の選定

モータの出力軸を延長し、軸受によって支えられるシャフト軸は、軸受を選定したあとに決めるのがよい。
これは、穴加工の方が棒加工よりも困難なためである。内輪と軸のはめあいを考えながら軸を選定する。

参考:はめあい(NTNhttp://www.ntn.co.jp/japan/products/catalog/pdf/2202_a07.pdf
はめあい選択の基礎/常用する寸法公差(ミスミ) https://jp.misumi-ec.com/pdf/fa/2014/p1_2287.pdf
はじめての精密工学:寸法公差・はめあい https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspe1986/71/3/71_3_327/_pdf

はめあいとは

一体にする穴と軸の組み合わせの関係であり、その関係には以下の3種類が存在する。

  • すきまばめ
    • 穴の寸法よりも軸の寸法が大きいゆるい組み合わせ
  • しまりばめ
    • 穴の寸法が軸の寸法よりも小さいきつい組み合わせ
  • 中間ばめ
    • 実寸法によって、すきまあるいはしまりの状態になる

これらのはめあいは、穴と軸の寸法公差を踏まえたうえで考えなければ正しく設定することができない。

寸法公差

精密加工では、機能に差し支えのない範囲の寸法の誤差は許容しなければ、時間的にもコスト的にも不利である。
そのため事前に寸法の誤差の許容範囲を定め、それをふまえた上で設計を行う。

以下の例では、基準となる寸法50.000mmを中心に、上下に0.005mmずつの誤差を許容している。
この「公差域の位置」と「寸法公差」は、公差域クラス(JIS規格)としてアルファベット数字で記述される。

項目 内容 例(mm)
基準寸法 加工の基準となる寸法 50.000
最大許容寸法 許される寸法の最大値 50.005
最小許容寸法 許される寸法の最小値 49.995
許容限界寸法 最大許容寸法 と 最小許容寸法
寸法公差 最大許容寸法 - 最小許容寸法 0.010
上の寸法許容差 最大許容寸法 - 基準寸法 0.005
下の寸法許容差 最小許容寸法 - 基準寸法 -0.005
公差域 最大許容寸法と最小許容寸法に囲まれた領域

公差域クラス

※公差域クラスは基準寸法によって異なった値を取ることに注意する。

アルファベットは公差域の位置を表し、後ろの数字は公差域の幅を表している。
公域差の幅は、IT基本公差に則っている。 軸の公差域クラスは小文字穴の公差域クラスは大文字のアルファベットで記述される。

たとえば基準寸法が10mmのとき、

  • h7の軸の寸法許容差は上が0μm、下が15μm
  • f7の軸の寸法許容差は上が-13μm、下が-28μm

である。公差域の位置は異なるが、幅はどちらも15μmとなっている。
ここでIT基本公差の表を見ると、基準寸法が10mmのとき、公差等級の数字7が示す基本公差の値が15μmであることが確認できる。

軸の公差域クラス

f:id:tyokota_0529:20171004202114p:plain
(ミスミの技術資料より引用)

穴の公差域クラス

f:id:tyokota_0529:20171004202748p:plain
(ミスミの技術資料より引用)

穴と軸のはめあいの例

たとえば基準寸法を10mmとし、公差域がh7の軸とH7の穴のはめあいを考えたとき、

  • 軸:上の寸法許容差が0μm、下の寸法許容差が-15μm
  • 穴:上の寸法許容差が+15μm、下の寸法許容差が0μm

である。このとき、穴に軸を通した際には最小で0μm、最大で30μmのすきまが生じ、しまりの状態になることはない。
よって、h7とH7のはめあいはすきまばめであることがわかる。

f:id:tyokota_0529:20171004205347p:plain
(ミスミの技術資料より引用)

はめあいの決定

実際に軸受を使う際は、軸を内輪の穴に通し、外輪をハウジングの穴に固定する。
このとき、軸と内輪/外輪とハウジングをそれぞれ「すきまばめ」にするのか「しまりばめ」にするのかは、回転の区分と荷重の性質によって決定する。

静止荷重と回転荷重

内輪・外輪の各軌道輪にかかる相対的な荷重について考えることで、穴と軸のはめあいが決定できる。

  • 軌道輪に回転荷重が作用する場合、しまりばめにする必要がある。
  • 軌道輪に静止荷重が作用する場合、すきまばめにすることができる。

例えば

内輪の軸に取り付けられた不釣り合いの荷重が軸と共に回転するとき、

  • 荷重は軸・内輪とともに回転するため、内輪にかかる荷重は相対的に静止している
  • 静止している外輪に沿って荷重を持った内輪が回転するため、外輪にかかる荷重は回転している

とみなすことができる。よってこのときの荷重の性質は内輪静止荷重かつ外輪回転荷重である。

f:id:tyokota_0529:20170929171455p:plain
NTN技術資料より引用)

ラジアル軸受のはめあいの一般基準

上記の荷重の性質によって決まるはめあいは、実際には更に細かい条件に応じてしまり・ゆるみの調整することが奨められている。

以下に、ラジアル軸受に対して常用される軸の公差域クラスの表を示す。
荷重の大きさ軸の設置条件、または荷重の方向によって、異なる程度のしまり・ゆるみが示されている。

ただし、以下の表では軸の寸法許容差は公域差クラスで示されているのに対して、内輪の寸法許容差は公差域クラスで考えられていないことに注意する(0級、6X級、6級)。

f:id:tyokota_0529:20171005050305p:plain
NTN技術資料より引用)

軸受の等級

ラジアル軸受の内輪寸法の許容差は、上述した穴の公差域クラスでなく、等級やその他の手法で表されることがある。

NTNの軸受はJISの等級で分類され、この等級は0級が最も一般的である。
等級における穴の寸法の許容差は(平面内)平均内径の寸法差として表され、0級の場合上が0μm,下が-8μmである。

等級による軸受の精度は以下の資料の中で示されている。

軸受の精度(NTN)

等級における内輪の寸法差と、その等級と軸の公差域クラスとのはめあいの関係は以下の表で示されている。

f:id:tyokota_0529:20171010093343p:plain
NTN技術資料より引用)

補足:旭精工の軸受ユニットの場合、その精度は以下の表で示される。

f:id:tyokota_0529:20171010094831p:plain:w300
(旭精工の技術資料より引用)

また、旭精工は上記の軸受ユニットの取扱いとして、以下の資料内で推奨する軸の寸法許容差を示している。

 軸受の取扱い(旭精工)